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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)3561号 判決 1995年11月30日

大阪府八尾市山本町南六丁目六番四号

控訴人

株式会社 共栄精工

右代表者代表取締役

高木省三

右訴訟代理人弁護士

谷口達吉

右輔佐人弁理士

藤本昇

千葉県船橋市芝山二丁目一四番一号

被控訴人

株式会社 ダイナテック

右代表者代表取締役

宮口建二

右訴訟代理人弁護士

青柳昤子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

以下においては、控訴人を「原告」と、被控訴人を「被告」とそれぞれ表記する。

第一  申立て

原告は原判決取消しの判決とともに、次の請求の趣旨に記載の判決並びに仮執行宣言を求め、被告は控訴棄却の判決を求めた。

(請求の趣旨)

一  被告は、原判決別紙目録一記載の運搬用回転具を製造し、販売してはならない。

二  被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項記載の物件並びにその半製品を廃棄し、同物件の製造に必要な金型を除去せよ。

三  被告は、原告に対し、二七〇〇万円及びこれに対する平成三年四月二六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金額を支払え。

第二  事案の概要

一  事実関係(甲六〇ないし七九、検甲四ないし一〇、証人武田、被告代表者本人、弁論の全趣旨)

1  原告は、ボールトランスファー、荷役搬送機器の製造及び販売等を目的として昭和四六年に設立された会社であり、大阪に本店を置き、東京、札幌、仙台、栃木、静岡、名古屋、広島、福岡など全国九か所に営業所を設けている。

原告は、昭和四七年一〇月ころから、半球状に形成された受部に配受された多数の小ボールでメインドールを包み込むように形成した全方向摺動搬送機器を開発し、該機器を「フリーベア」と称して販売していたが、昭和五五年一一月以降は、原判決別紙「原告商品販売実績」記載のとおり、原判決別紙目録二AないしG記載の運搬用回転具(原告商品)を製造、販売している。

ただし、原告は、品番AFU-500T(B)及びAFU-400T(C2)の商品については昭和六三年度をもって、品番AFU-200T(F2)及びAFU-250T(E)の商品については平成元年度をもって、それぞれ製造、販売を中止している。

2  被告は、プレス周辺機器、運搬用回転具機器などの製造、販売を業とする会社であり、平成元年一〇月ころから、原判決別紙目録一記載の運搬用回転具(「ボールエアリフタMODEL BL36-550」。被告商品)を製造、販売している。

被告は、原判決後の平成七年一月から型式変更をし、被告商品そのものを旧製品にして、別シリーズであるボールエアリフタBLA36シリーズの製造販売に切り替えたと主張する。しかしながら、被告も自認するように、被告製品を購入済みのユーザーから交換部材の要求があった場合には旧製品を製作する場合があり得るとしているし、原告も請求の変更をしていない。そこで、当裁判所としても、以上の事実整理及び請求について、特に整理し直すことはしなかった。

二  請求

原告は、原告商品の形態が、原告の商品であることを示す表示として、日本国内において需要者又は取引者間に広く認識され、商品表示性を具備し、周知性を獲得しているところ、被告商品の形態が原告商品の形態と類似し、その使用は原告商品との混同を生じさせ、不正競争行為を構成すると主張して、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき、被告商品の製造販売の停止並びに被告商品、その半製品及び被告商品の製造に必要な金型の廃棄を求めるとともに、同法四条に基づき、被告の行為により原告に生じた営業上の損害金二七〇〇万円及びこれに対する平成三年四月二六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  争点

1  原告商品の形態は、商品表示性を具備しているか。周知性を獲得しているか。

2  被告商品の形態と原告商品の形態は類似するか。被告商品と原告商品との間に混同を生じるか。

3  原告の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるか。

4  被告の行為が不正競争行為に該当する場合、被告に過失があったか。それが肯定された場合、被告が賠償すべき原告に生じた損害金額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(原告商品の形態は商品表示性を具備しているか。周知性を獲得しているか)

〔原告の主張〕

1 原告商品は、各部の寸法やボールの数などの細部の形態には若干の微差があるが、各商品の基本的外観形態は次の点で共通している。

(一) 非使用時(静止状態)における外観上の特徴

(1) 幅の広い長尺の基台の上に、同基台より幅の狭い長尺状の受台を設けている点。

(2) 右受台には、横一列にほぼ定間隔でもって半球状の多数の受部を設け、各受部におのおの銀色のメインボールを配設している点。

(3) 右各メインボールが右受台の上面より、ほぼ全体直径の三分の一程度突出して設けられている点。

(4) 本体の側面形状がほぼ逆T字状である点。

(二) 使用時(動的状態)における外観上の特徴

以上の非使用時(静止状態)における外観上の特徴に加え、使用時においては、前記メインボールの位置が上昇ないし浮上する点が外観上の特徴として加わる。

2 右基本的外観形態は、既存の形態を選択したものではなく、原告独自の創作に係るものであり、運搬用回転具にあっても、またそれ以外の商品にあっても、原告商品と同一又は類似の形態上の特徴を備える商品は皆無である。

被告が原告商品と形態が同一であると主張する、相生精機株式会社、有限会社コスモテック、エスアールエンジニアリング株式会社、株式会社コスメック、株式会社小林搬送機器などが製造、販売する乙第九ないし第一三号証のダイリフタ製品は、原告商品のような受台にボールを配したボール型ではなく受台にローラーを配したローラー型である。そして、この形態の差異こそが、被搬送物を自由自在に動かし、位置決めができるか否かという原告商品の機能にも関連する最重要部の一つであり、形態的に見ても、原告商品と他社商品を最も明確に識別できる特徴の一つである。そして、これまで原告商品以外に受台にボールを配したダイリフタは全く存在しなかった。また、乙第九ないし第一三号証(前同)のダイリフタは、T溝に挿入するタイプであっても側面は逆T字状ではない。結局、被告指摘のダイリフタ製品の存在をもって原告商品の外観上の特徴が商品表示性を具備し、周知性を獲得していることを否定することはできない。

被告は、原告自身原告商品以外にもダイリフタの基本形状を備えた製品として、角溝挿入タイプのボール・エアタイプの製品(AFU-5N、AFU-5050-5、AFU-5050-12、AFU-5050W-5、AFU5050W-12、AFU-5050W-18、AFU-5036M)と、T溝挿入タイプのローラー・エアタイプの製品(ARU-200T、ARU-400T、ARU-250T、ARU-500T)を製造、販売しており、この点からしても、原告主張の原告商品の外観上の特徴が商品表示性を取得することはないと主張する。しかし、これらの製品は、いずれも原告商品の外観上の特徴の重要な部分を欠いている(前者は側面視した場合に総二階型なのに対し、後者はローラー型である)から、被告の主張は当たらない。

被告は、乙第六号証及び第六九号証の各公開実用新案公報並びに乙第七号証の公開特許公報に、原告主張の原告商品の外観上の特徴を具備した製品が掲載されているとし、これを根拠に、原告主張の原告商品の外観上の特徴が商品表示性を取得することはないと主張する。しかし、乙第六号証及び第六九号証の公開実用新案公報に掲載された形態を有する製品が実際に製造、販売された形跡は全くない。そもそも、特許権や実用新案権にあっては、先行技術が公報に掲載された事実によってその新規性が否定されるのとは異なり、不正競争防止法で問題となる商品表示性は一枚の公報の存在によって否定されるものではない。乙第七号証の公開特許公報に掲載の発明の特許出願人は原告自身であるが、そのことは原告商品の商品表示性の獲得にマイナスとなるものではない。また、乙第六八号証の公開実用新案公報については、ローラー型であり原告商品のようなボール型ではないから、原告商品の形態の商品表示性を否定する資料とはならない。

3 原告商品の形態は、原告商品の技術的機能から必然的に由来する唯一不可避のものではなく、原告が独自に選択したものである。例えば、ダイリフタのメインボールを横一列に配する形態と異なる形状にすることは十分可能なはずであるし、基台や受台を原告商品のような形状にしなければならない必然性は全く存しない。必ずしもメインボールを横一列にほぼ全体直径の三分の一程度突出して設ける必要もないし、メインボールの位置が上昇ないし浮上する必要もない。

被告は、原告商品の本体の側面形状が逆T字状になっている点について、駆動機構にエアーを使用する場合には、油圧に比して駆動力が弱いため、T溝の広い下幅一杯に駆動部を設けることが設計上最も望ましく、T溝挿入タイプのダイリフタについてエアーを使用する場合に側面を逆T字状とするのは当然であると主張するが、被告商品のカタログ(甲第九〇号証)においても、T溝挿入タイプのダイリフタでエアーを使用するものについて、側面形状が逆T字状となっていないものも多く見られる。甲第八五、第八六号証のように、T溝挿入タイプのダイリフタでエアーを使用する場合でも、側面形状が逆T字状でないものを作るのは技術的には十分可能である。被告は、甲第八五、第八六号証のような製品は経済性を無視した製品であり、T溝挿入タイプのダイリフタについて駆動にエアーを使用する場合に側面を逆T字状とすることは、ダイリフタの目的と作用からして当然に導かれると主張するが、甲第八五、第八六号証のような製品の方が製造が簡単であるし、単体のフリーベアを設置するのみなので、製造方法によっては、かえって安価に生産することができる。

ダイリフタには、U溝挿入タイプとT溝挿入タイプの二種類があり、それぞれについて駆動機構に油圧、水圧、その他の液体圧、エアー圧を用いる四種類の手段の選択の余地があり、それぞれについてローラー型とボール型が選択可能である(都合二×四×二の一六種類の組合せが考えられる)。そして、T溝挿入タイプのダイリフタについて駆動機構にエアーを使用する場合、側面を逆T字状とするのが当然であるとの被告の主張を前提としても、駆動機構にエアーを使用するのでなければ、側面を逆T字状ではなくて箱型となし得る。このようにダイリフタの形態としてこれだけ多様な選択枝があり、原告商品の外観上の特徴は、ダイリフタの技術的機能から必然的に由来する唯一不可避のものではなく、原告が独自に選択したものなので、T溝挿入タイプのダイリフタについてエアーを使用する場合に側面を逆T字状とするのが当然であるという被告主張が仮に正しいものとしても、それをもって原告商品の形態の商品表示性が否定されることはあり得ない。

4 原告は、原告商品について、<1>昭和五六年一月から今日まで、工業製品の宣伝媒体としては最も著名な新聞である「日刊工業新聞」(発行部数毎日約五五万部。甲第三号証ないし第一四号証(枝番を含む))に宣伝広告を掲載し、<2>昭和五五年一二月から今日まで、業界雑誌である「プレス技術」(月間発行約三万部。甲第二六号証ないし三七号証(枝番を含む))に、昭和五六年八月から今日まで、機械製品の宣伝広告誌として著名な雑誌である「機械設計」(月間発行部数約三万六五〇〇部。甲第三八号証ないし第四九号証(枝番を含む))に宣伝広告を掲載し、<3>各種機械製品などを扱う有力販売会社の毎年のカタログなど(甲第五〇号証ないし第五九号証)に原告商品の宣伝広告を継続的に掲載してきた。

被告は、これらの宣伝広告においては、広告の文面はダイリフタの機能、作用等の説明に尽き、また、そこに掲載された写真はAFU-500T商品の全体形状すら把握できない不明瞭な写真なので、これらの宣伝広告によっては原告主張の原告商品の形態が商品表示性を取得することはあり得ないと主張するが、これらの写真によって原告商品の外観上の特徴を把握することは十分に可能である。商品の形態や意匠をセールスポイントにするのであれば、その部分を克明に宣伝広告したり、写真でも大写ししたりするであろうが、使用目的や性能をセールスポイントにする商品であれば、その宣伝広告は使用目的や性能に関する説明文を記載し、商品の写真や図面を掲示するに当たっても、その説明文のイメージを視覚に訴えるための写真や図面を掲示するだけなのが通常である。本件においても、甲第三号証の新聞広告からも、基台上の細幅の受台上にボールが多数配されていることが十分に分かり、説明文中の「……重量物も自由自在、……エアー浮上式……エアー浮上式フリーベアユニットAFU-500TN一本で五〇〇kgの金型を支え重いプレス金型も前後左右三六〇度方向にスムーズに移動調節できます。AFU-500TNはプレス機械などのボルスターのT溝に挿入するだけです。AFU-500TNの始動抵抗は実測値で2/100、したがって二本使用の場合一トンの金型なら二〇kgの力でスムーズに手早く金型のセッティングができます」との記載と併せて読めば、それ自体で原告製品の外観上の特徴をユーザー等に十分視覚的に訴えている。

被告は、これら宣伝広告の主体が株式会社フリーベアコーポレーションとなっているとするが、(株)フリーベアコーポレーションは、原告の完全な子会社で、原告会社の販売会社の役割を果たしているのであるから、被告の主張は失当である。

5 原告商品の外観上の特徴が商品表示性を具備し、周知性を獲得するに至った経緯は以下のとおりである。

原告は、一方では、原告商品の機能や用途、価格等を、従来の他社製品のそれと比較しながら、特定のユーザーや問屋などに口頭で、あるいはパンフレットや商品を示して、詳しく具体的に説明し、他方ては、同様の事項についての説明を、潜在的な不特定のユーザーや問屋などにパンフレット等の宣伝広告媒体を通して行う。前者の場合は、ユーザー等の目と耳を通じて、後者の場合は、その目を通じて訴える。そして、後者によって原告商品の存在を知り興味を持った者は、原告商品を取り扱う問屋を訪れたり、原告の社員を呼んだり、電話で説明を聞くことになる。

このようにして原告商品の特色や優秀性を理解したユーザーが原告商品を購入すると、直接的な説明や広告による宣伝効果に加え、ロコミによる宣伝効果も期待できる。その際、ロコミだけで原告の名を聞き連絡してくる者もあれば、原告商品質の設置現場を見て連絡してくる者もあり、既に購入した者を通して連絡してくる者もある。

そのようにして原告商品は消費者やユーザーの間に広く認識されるようになり、これが更に進展すると、現在のユーザーや原告商品を取り扱う問屋筋以外の潜在的なユーザーや、原告商品を取り扱わない問屋筋にも、原告商品の評判や噂は広まっていく。

この過程において、原告商品の外観上の特徴は、徐々に漠然としたイメージから具体的なイメージに、更には具体性を持った認識へと移行していく。すなわち、当初その性能や価格を重視して原告商品の購入を決定していたユーザーや問屋筋、あるいは、潜在的なユーザーや問屋筋の中に、細長い金属製の台が二段重ねとなっており、その上に銀色のボールが横一列に多数設置されており、そのボールが少し顔をのぞかせ、側面が逆T字状形状の商品は、あらゆる方向に搬送物を移動させるためのものであり、特定の会社によって製造、販売されているものであるとの認識へ移行していく。

6 原告商品の外観上の特徴となる前記1で述べた形態は、昭和五五年一一月に原告商品の製造販売が開始されて以来一一年にわたり原告により排他的に使用され、発売開始から平成四年九月三〇日までの約二年間に計五二六六基が販売され、その売上高は七億五四一五万九八〇〇円相当にも上る。我が国において、搬送物をあらゆる方向へ移動させることができるボール方式の運搬用回転具としては原告商品があるだけであり、原告商品は右期間中、需要者や需要数の限られた業界の中で一〇〇パーセントのシェアを占めてきた。

被告は、原告商品がダイリフタ市場の六パーセントを占めるにすぎないと主張するが、仮にそれが正しいとしても、エアー式のダイリフタとしては原告商品以外には存在しないし、ボール式で自由自在に位置決めのできるダイリフタも原告商品以外には存在しないから、その市場占有率は一〇〇パーセントといってよい。

〔被告の主張〕

1 本件訴訟において原告は、原告商品の形態について、それが出所識別力を有しており、周知性も獲得したとして、不正競争防止法の適用を求めている。しかし、原告が原告商品について特許権や実用新案権などを有していない以上、被告商品にどのような構造や形状を採用しようと本来被告の自由である。このような自由な営業活動を制約し、原告が原告商品の特定の構造や形状を独占しようというのであれば、それは例外的に認められることであり、当該構造や形状が単なるそれを超えてセカンダリーミーニングとして、原告の商品であることを示す自他識別力を極めて明確に有するに至っている場合でなければならない。

2 原告商品及び被告商品は、いずれもダイリフタと呼ばれる製品である。本件では、ダイリフタという製品の目的、機能、通常有する形態についての理解が不可欠である。

(一) ダイリフタの製品分野について

ダイリフタとは、プレス機械の金型交換のためのシステム部品(金型交換システム)の一つである。金型交換システムは、昭和五十一、二年ころから相生精機(株)が先駆となって製造販売を始めたシステム部品で、相生精機(株)が製品を出してから約半年遅れてエスアールエンジニアリング(株)が同種製品を出し、さらに他社が同種製品を出して追随するといった形で市場が拡大した分野である。

この金型交換システムは、プレス機械のボルスタに取り付けるプレス用金型をボルスタ上で(あるいはボルスタ上に)楽に移動させるための部品類の総称で、プレス機械に標準装備される部品類ではなく、プレス機械のユーザーの希望によってオプションとして取り付けられるシステム部品である。

(二) ダイリフタの目的、構造及び作用

プレス機械を使用してプレス加工を行う場合、プレス加工に必要な金型をプレス機械に取り付ける必要がある。金型を取り付けるには、金型の上型と下型を重ねた状態でプレス機械のボルスタと呼ばれる部分の上を移動させ、ボルスタ上の所定位置に正確に金型が位置決めされたところで、金型の下型はボルスタに、金型の上型はプレス機械のスライドと呼ばれる部分にTボルトで固定する。そしてこの金型の下型と上型の間に材料を挿入し、その上で金型の下型と上型を合わせてプレスすることによって、金型どおりの形の製品のプレス加工が行われる。

ボルスタには金型固定のためのTボルトを挿入できるように、断面形状が逆T字状のT溝が何本かあらかじめ設けられている。

プレス機械一台で色々なプレス加工をするには、数種類の金型(上型及び下型)を交換して使用することになるが、ボルスタ上を移動させる上型と下型とが重ねられた状態の金型は何t、あるいは何百kgと重いものであるため、それを交換するのは大変な作業である。そこで、この作業を補助するための補助部品が工夫されたものであり、ダイリフクはその一つである。

ダイリフタは、このように金型交換時に金型の移動を楽に行うための補助部品であって、ボルスタの細長い溝に挿入して使用するため細長い長尺状の部品であり、最上部には金型を転がして移動させるための転動体が設けられており、また、右転動体は浮上時に溝から突出し得るように一列に配置されており、金型がボルスタ上を移動する場合には油圧などの駆動力でダイリフタの最上部に設けられた転動体をボルスタ上に浮上せしめ、これにより金型を摩擦の大きなダイリフタ上ではなくダイリフタに載置されている転動体上で移動させるようにした構造の部品である。そして、金型がボルスタ上の所定位置まで移動され位置決めが終了すると、金型をボルスタに固定するためにダイリフタは浮上位置から下降する構造となっており、そのため、金型をボルスタにTボルトで固定することができるのである。

T溝は、金型を固定するためのTボルトを挿入するためにボルスタにあらかじめ設けられている溝であり、断面が逆T字状の細長い溝である。そしてプレス機械の大小によって、使用できる金型の大きさも異なり、その固定用のTボルトの大きさも異なってくることから、必然的にT溝の寸法もプレス機械ごとにまちまちになっている。最近はJIS規格によってある程度統一されているが、JIS規格自体が既に多種多様のものであり、また、JIS規格によらない独自のT溝寸法を有する機械も少なくをい。

初期のころのダイリフタは、ボルスタにダイリフタ用のU溝(角溝)を特に加工して、この溝に挿入して使用するタイプのものであったが、遅くとも昭和五三年ころには相生精機(株)が、ダイリフタ用にU溝を特に加工することなく、ボルスタにもともとT溝挿入用に設けられているT溝をそのまま挿入溝として利用するT溝挿入タイプのダイリフタの製造販売を開始し、以後U溝挿入タイプとT溝挿入タイプの二種類のダイリフタが各メーカーによって製造販売されている。

ダイリフタは、以上のとおり、ボルスタの溝に挿入して使用するものなので、U溝挿入タイプとT溝挿入タイプのいずれにおいても、すべてが細長いいわゆる長尺形状になっており、また金型移動が楽に行えるように転動体を配置するものなので、すべてが最上部に転動体を一列に配置する形状となっており、転動体は、等間隔に配置するのが通常であり、さらには金型移動時には転動体を溝から浮上させ、固定時にはこれを下降させる目的を有する部材であるところから、すべてが駆動機構を設けて金型移動時には転動体を溝から浮上させ、固定時には下降させるという構造のものである。

3 原告が本件訴訟で原告の商品表示として主張する原告商品の形態は、実に三回も変更され、しかも、当初「AFU-500TN」のみに関する形態であったのが、七種類の原告商品から抽出される抽象的な形態へと変更されている。真に特徴的な形態ならば、このような変更があるはずがなく、右のような度重なる主張の変更自体、原告の主張が恣意的で根拠のないものであることを示している。

4 原告商品のうち、その形状が現物により証明されているのは、原判決別紙目録二A製品だけであると被告は考えるが、仮に原判決別紙目録二AないしGに示されるすべての製品が右各目録記載の形状であるとしても、原判決別表(AないしGの各アルファベットは右目録AないしGに対応する)に示すとおり、おのおのが各別の具体的形態を有しているものであり、長尺部分の長さも高さも、取付部分の形状も、ボール数もボールとボルト頭部の配置形状もおのおの異なっている。あえてそれらに共通する形態的特徴を挙げると、以下のとおりである。

原告商品は、昇降装置としてエアシリンダを採用したため、小さな多数のエアシリンダを組み込む構造を有しており、ボール保持部の上段、下段のいずれにも多数のボルト頭部が列をなして配置されるという特徴がある。これを原判決別紙目録二AないしF製品についてみれば、<1>平面図において上段に略円形状の多数のボルトの頭部の形状が現れ、<2>中段にボルトの頭部よりも多数の円形のボールの形状が現れ、<3>下段には上段と対称の位置に上段と同数の多数の略円形状のボルトの頭部の形状が現れるという特異な三段形状にその特徴があり、原告主張のような抽象的形状をその特徴として把握する余地はない。

また、右G製品は、右AないしF製品に共通するボルト頭部の現れる特異な三段形状より成る形態を具備しておらず、形態的特徴が顕著に相違しているのであるから、右AないしF製品と同一の形態的特徴を持つものとして把握する余地がない。

5 原告が主張する前記一〔原告の主張〕1記載の抽象的形態は、同種の形態を有する運搬用回転具が多数存在するため、何ら特異性のないありふれた形態にすぎず、原告の商品表示として出所識別機能を獲得し得るものではない。

原告商品は、プレス機械の金型を載置するボルスタから転動体を突出させることによって、ボルスタ上の金型を浮上させ重い金型を容易に移動させようとするものであるが、このような用途の製品には既に種々の製品が存している。

すなわち、原告商品の発売開始前である昭和五四年四月一三日公開の公開実用新案公報(乙第六号証)には、側面が逆T字状をしており、転動体としてボールを使用し、最上部にボールを一列に等間隔に配置し、使用時にボールを浮上させる駆動機構を有した「プレス金型移動用具」が図示されており、右形態的特徴そのものが(株)中村プレス工業所の実用新案登録出願に係るものとして広く一般に公開されている。また、昭和五三年一〇月七日公開の公開実用新案公報(乙第六九号証)にも、同様の形態的特徴を有する「プレス機用ダイリフタユニット」が図示されており、右形態的特徴そのものが栗田光郎の実用新案登録出願に係るものとして広く一般に公開されている。

エスアールエンジニアリング(株)の実用新案登録出願に係る昭和五七年七月三〇日公開の公開実用新案公報(乙第六八号証)には、側面形状が逆T字状で、最上部に転動体としてローラーを一列に等間隔に配置し、使用時にはシリンダーで浮上させる構造のダイリフタが図示されている。ちなみに、ダイリフタの転動体について、ボールを使用するか、ローラーを使用するかは、実施に当たり適宜選択する技術上の問題にすぎない。

乙第七号証は、昭和五六年一一月一七日公開の公開特許公報であるが、同公報にも、原告主張の原告商品の形態的特徴をすべて備えた「プレス金型の支承装置」が図示されている。原告は乙第七号証の出願人は原告自身なので、その存在は原告商品の形態の特徴が商品表示性を取得するのに障害にはならないと主張するが、前記乙第六号証から二年以上も経ってから公開された乙第七号証には、もとより原告主張の原告商品の形態の特徴が原告商品であることを示す独自のものであることをうかがわせる記載はなく、むしろ開示された特定の改良発明の範囲外については権利の及ばないことを公示しているのであり、この種製品としては、第三者の出願に係る乙第六号証と共にありふれた形態に一例を加えているのである。

遅くとも昭和五十四、五年ころまでには、ボルスタのT溝やU溝に挿入され、ボルスタから転動体を突出させることにより金型などを浮上させる用途に用いられるダイリフタにおいて、ローラーを一列に等間隔に並べた長尺物を駆動部材によって浮上させるという構造は極くありふれた構造となっており、このような構造のダイリフタを製造販売している会社としては、相生精機(株)、エスアールエンジニアリング(株)、(株)小林搬送機器、(有)コスモテック、(株)コスメックなどの大手メーカーがあり、その製品が乙第九号証ないし第一三号証に掲載されている。原告が本訴において主張している原告商品の中で、原告が最初に製造販売したとする「フリーベアユニットAFU-500T」製品についてみても、右の各社のローラー式のダイリフタに比べると、一列に等間隔に並べられたローラーをボールに置き換えただけの製品にすぎず、しかも、同製品の製造開始以前から、ボールを使用し側面が逆T字状形状のダイリフタが公知となっていたものであって(前掲乙第六号証、第六八号証)、同製品がダイリフタとして有している構造は何ら特異なものではない。原告は、乙第九号証ないし第一三号証のダイリフタについて、T溝型であっても側面は逆T字状をなしていないから、これらのダイリフタの存在をもって、前記一〔原告の主張〕1記載の抽象的形態の商品表示性及び周知性を否定することができないと主張するが、これらのダイリフタの側面が箱型となっているのは、油圧を駆動機構に用いているために、駆動機構を収めている下部を上部に比して大きく設計しなくても十分な駆動力を出せるために、偶々上部と下部が同じ細幅の箱型となっているだけである。駆動機構にエアーを使用する場合は、油圧に比して駆動力が弱いために、T溝の広い下幅一杯に駆動部を設けることが設計上最も望ましく、T溝挿入タイプのダイリフタについて、エアーを使用する場合に側面を逆T字状とするのは当然の設計事項である。要するに、乙第九号証ないし第一三号証においてT溝タイプのダイリフタの側面が箱型か逆T字型かは、駆動力を油圧とするかエアーとするかによる単なる設計事項の相違にすぎない。また、前掲乙第六号証及び第六八号証において、側面を逆T字状としたダイリフタの構造が知られている以上、原告の主張は当たらない。

原告自身、ダイリフタの基本的形状を備えた製品としては、原告商品のほか、数種類の製品を製造販売しているのであり、この点からしても、前記一〔原告の主張〕1記載の抽象的形態を原告商品の形態の特徴であるとの主張は失当である。すなわち、原告は本訴で主張しているT溝挿入タイプ以外に、角溝挿入ボール・エアタイプの商品(AFU-5N、AFU-5050-5、AFU-5050-12、AFU-5050W-5、AFU5050W-12、AFU-5050W-18、AFU-5036M)、T溝挿入型ローラー・エアタイプの商品(ARU-200T、ARU-400T、ARU-250T、ARU-500T)を製造販売しており、これら商品の基本的形状は原告商品と同じである。これら同種の製品が存在する状況下では、前記一〔原告の主張〕1の抽象的形態が原告商品の特徴的形態として把握、認識される余地は全くなく、いわんや右形態が商品表示性を取得するものでもない。

6 原告主張の原告商品の形態の特徴は、運搬用回転具の技術的機能から必然的に由来するものにすぎず、かかる技術機能的形態を独占することは、機能そのものを独占することであって許されない。

ダイリフタ製品は、挿入するT溝及びU溝自体が細長い長尺形状となっているために、すべてが細長い長尺状形状をしている。断面形状が逆T字状をしているT溝挿入タイプのダイリフタであれば、側面が逆T字状となるように下部を広幅に上部を細幅にすることは、単なる設計事項にすぎない。現に原告商品以外にも、側面が逆T字状のダイリフタ製品は存在する。

特にエアーを駆動力として選択した場合、油圧に比して駆動力が弱いために、T溝の広い下幅一杯に駆動部を設けられるようにその部分を逆T字状に設計することが最も望ましく、T溝挿入タイプのダイリフタについて、エアーを駆動力として使用する場合に側面を逆T字状にするのは当然の設計事項である。原告は、被告商品のBL45製品が基台と受台の幅が同じ総二階型(箱型)となっているとして、エアーを使用したT溝挿入型のダイリフタでも箱型となし得ると主張している。しかしながら、被告のBL45製品はU溝挿入型のものでありT溝挿入型のものではない。BL45製品はU溝挿入型であるために、エアーによる駆動部を十分幅広一杯に設計し、この広い幅に合わせてボール保持部の方を広く設計して箱型としてあるものである。このようにU字挿入型の商品であれば下部の幅広の駆動部寸法に合わせて全体を箱型とすることができるが、T溝挿入型商品の場合には、下部の幅広の駆動部上に乗せるボール保持部はT溝形状に合わせて必然的に細幅とせざるを得ないのであり、したがってエアーを駆動力として使用するT溝挿入型の場合には、側面形状が逆T字状になるのが当然の設計事項なのである。原告は、甲第八五号証、第八六号証のように、T溝挿入タイプのダイリフタでエアーを使用する場合でも、側面の形状が逆T字状でないものは技術的に十分製造が可能であると主張するが、甲第八五号証、第八六号証のような製品は、経済性を無視したもので、参考にならない。

ダイリフタにおいて転動体を一列に設けることは、転動体を長尺状の溝に挿入し浮上せしめて使用することから当然の構成であり、転動体を等間隔に設けることも、製造上最もありふれたものであり、しかも転動体を最上部に設けて使用時に浮上させることはダイリフタというものが金型を転動体上で移動させる目的で使用される部材であることからして当然のことである。

転動体をローラーとするかボールとするかは、おのおのの特性を比較してする設計事項にすぎないことはこれまで繰り返し指摘したとおりであり(なお、乙第二七号証の1、2、乙第三〇号証参照)、ダイリフタにおいて無方向性を持たせるにはボールを使用するしか手段がない。ボールを選択した場合に半球状に形成された受部にボールを配することも当然の設計事項である。

このように原告主張の原告商品の形態的特徴(一〔原告の主張〕1の抽象的形態)は、転動体としてボールを使用し、駆動力としてエアーを選択した場合のT溝挿入タイプのダイリフタとしては、商品の目的、作動及び機能から導かれる基本的形態そのものであり、原告商品の形態の特徴となるものではなく、商品表示性を取得し得るものでもない。このような基本的形態は、ダイリフタの技術的機能に由来する必然的形態と言うことができ、これについて、特許権や実用新案権が認められた場合以外は、何人もその独占は許されない。

7 原告商品の宣伝広告態様からも、原告主張の原告商品の形態の特徴が商品表示性を取得することはない。

商品の形態がセカンダリーミーニングとして出所識別機能を取得するためには、商品の形態によってその出所を示すような特別かつ強力な宣伝広告がされることが必要であるが、原告商品については何らそのような宣伝広告はされていない。

原告の宣伝広告(「日刊工業新聞」=甲第三号証ないし第一四号証(枝番を含む)、「プレス技術」=甲第二六号証ないし第三七号証(枝番を含む)、「機械設計」=甲第三八号証ないし第四九号証(枝番を含む))は、原告商品が「エアー浮上式」であることなどの機能、能力及び仕様などを強調しているだけであり、形態によって自他を識別させることを目的とした、二次的機能を積極的に持たせるような強力な内容の宣伝広告ではないし、原告自身も右抽象的形態は何ら特徴として認識していなかった。これらの宣伝広告に掲載された写真も、原告商品のすべてではなく、甲第三号証ないし第一四号証、第二六号証ないし第三六号証の8(枝番を含む)に掲載の写真はAFU-500Tのみ、甲第三六号証の9ないし第三七号証(枝番を含む)、第四八号証の5ないし第四九号証(枝番を含む)に掲載の写真はAFU-500TNのみにすぎない。その上、これらの写真は、すべて特定方向のみから撮影した写真であり、原告主張の原告商品の形態的特徴はもちろん、AFU-500TあるいはAFU-500TNの全体形状すら把握することはできない。むしろ、これらの写真では、ダイリフタの形態としてはありふれた一列に等間隔に配置されたボール列の前側に、ダイリフタの形態としては珍しい、多数のボルトの頭部が一列に並んでいるという特異な配置形態がはっきりと撮影されており、この点こそ看者の注意を惹く部分である。

原告商品は、その宣伝広告の主体が原告ではなく(株)フリーベアコーポレーションであり、原告名は広告の最下段に小さく表示されているにすぎない。したがって、原告商品と原告との関連は広告内容からは全く不明である。

なお、甲第五〇号証ないし第五九号証は、原告商品の取扱商社の配布している商品カタログであるが、これらのカタログでは、原告商品のダイリフタとしての機能、性能、作用、仕様等を説明し、「フリーベア」「フリーベアユニット」の商標によって出所を識別せしめているにすぎず、また、そこに掲載された写真も、到底原告主張の原告商品の形態的特徴を認識させ得るようなものではない。ちなみに、甲第五三号証には成憲機工が商社として取り扱う原告の製品が掲載されているが、原告の製品としては、本件で主張されている原告商品(最下段に小さく掲載されているにすぎない)ではなく、「単体フリーベア」というタイプの製品がその主流であって、原告商品の占める位置は、成憲機工においても、原告自身においても、極めて小さいことを示している。

8 原告商品の販売状況からも、原告主張の原告商品の形態的特徴が商品表示性を取得することはない。

原告商品の同種製品については、相生精機(株)が市場占有率としては第一位であり、続いて(有)コスモテック、エスアールエンジニアリング(株)が大きなシェアを占めている。

原告の主張によれば、原告商品の売上げは一一年間で七億円余であり、一年間に換算すると約六〇〇〇万円になる。ダイリフタの市場は年間約一〇億円規模であり、仮に、原告商品について原告主張のとおりの売上げがあったとしても、市場の約六パーセントを占めるにすぎない。また、原告の全製品の年間総売上げは約一五億円であると原告は主張しているが、そうすると、原告商品は原告の主力製品ですらない。この程度の販売実績しかない原告商品(それも七種類の個別具体的な形態を有する製品の総称である)の商品形態について、商品表示性が認められる余地はない。

9 1ないし8、特に7で述べたところから、原告の主張する原告商品の形態の特徴が周知性を取得することもあり得ない。

さらに、<1>原告商品については、当業者の被告においても、昭和五十七、八年ころまでその存在自体知らなかったこと、<2>原告自身が、昭和五九年七月二五日、原告が原告商品の形態の特徴であると主張するもののすべてを備えた意匠を、公然実施もされず、刊行物公知にもなっていない意匠として意匠登録出願をし、特許庁においても、昭和六二年に至っても右意匠について公然実施の事実がないものとして意匠登録をしていること、<3>本件訴訟では、当初は右のとおり登録された意匠権に基づく請求も訴訟物とされていたが、そこでは原告自身が右登録意匠が出願前全く見られない独自新規な形態であると主張していたことからすると、原告の主張する原告商品の形態的特徴が周知性を取得していないことは明らかである。特に、<2>及び<3>の事実からすると、原告が原告商品について昭和五九年七月二五日以前の宣伝広告及び販売行為を、原告主張の原告商品の形態の特徴の商品表示性具備や周知性獲得の根拠として主張すること自体、禁反言の原則に反して許されない疑いがある。

二  争点2(被告商品の形態が原告商品の形態と類似するか。被告商品と原告商品との間に混同を生じるか)

これについての双方の主張は、原判決に示されているとおりである(四〇頁ないし七一頁にかけての二の項)。

三  争点4(原告に生じた損害金額)

〔原告の主張〕

被告は、遅くとも、平成元年一〇月ころから現在に至るまでの間に、少なくとも合計五〇〇本の被告商品を製造し、一本九万円で販売しており、少なくとも右売上額四五〇〇万円(五〇〇本×九万円)の六〇パーセントに相当する二七〇〇万円の利益を得た。右利益額は、商標法三八条一項の規定の類推適用により、原告の被った損害と推定される。

〔被告の主張〕

原告の主張はすべて争う。本件訴訟対象品である被告商品(BL36-550)の製造販売が開始されたのは平成二年九月ころからである。

第四  争点に対する判断

一  争点1(原告商品の形態は商品表示性を具備しているか。周知性を獲得しているか)中の商品形態の商品表示性

まず、商品形態の商品表示性について一言すると、商品の形態は、その商品が本来具有すべき機能を合理的に実現したり、その美観を高めるために選択されるもので、直接的にその出所を表示することを目的とするものではないが、商品の形態が極めて特殊なものであるとか、その形態が長期間継続的かつ排他的に一定の商品に使用され、あるいは短期間にせよその形態自体が強力に宣伝広告されるなどの事情により、取引上その形態によって直ちに商品の見分けがつき、その出所が分かる程度になり、二次的に出所表示の機能を備える場合がある。右の各要素により、商品の形態が出所表示の機能を備えるに至ったかどうかを判断するには、当該商品の特色と取引の実情を踏まえるべきなのはいうまでもない。

二  ダイリフタ商品の特色とその取引の実情

1  ダイリフタ商品の特色

証拠(乙二三の1~9、四三、被告代表者本人)によれば、以下の事実を認めることができる。

ダイリフタは金型交換システムを構成する部品である。金型交換システムとは、プレス機械のベッド上に設けられたボルスタ上に載置して取り付けるプレス用金型の交換を安全にしかも短時間に行うための部品類であり、標準仕様のプレス機械、いわゆる標準機に装備されているものではなく、ユーザーの希望によりオプションとして取り付けられる補助部品である。

プレス機械を使用してプレス加工を行う場合、これにプレス金型を取り付ける必要がある。その手順は、まず、プレス金型を上型と下型を重ね合せた状態でボルスタ上を移動させ、所定位置に正確に位置決めしたところで、下型はボルスタに、上型はスライドにそれぞれTボルトで固定する。そして下型と上型の間に加工材料を挿入した後、下型と上型を合わせてプレスすることによって、金型どおりの形状の製品のプレス加工が行われる。なお、ボルスタにはもともと金型固定用のTボルトを挿入できるように、断面形状が逆T字状の溝が穿たれている。

プレス機械上で種々の金型を用いてプレス加工をするためには、作業中に数種類の金型を交換しなければならないが、各金型は上型と下型を併せると総重量が何トンあるいは何百キログラムにも及ぶ重いものであるため、その交換をできるだけスムーズに行うことができるようにするための補助部品がいくつか必要であり、ダイリフタもその一種である。

ダイリフタは、細長い溝に挿入して使用され、最上部には金型を載置しその上を転がして移動させるために転動体が設けられている。転動体は、金型がボルスタ上を移動する場合、油圧やエアー圧などの駆動力でボルスタ上に浮上するのであり、その結果、金型を摩擦係数の大きなボルスタ上ではなく摩擦係数の小さな転動体上で移動させることが可能となる。金型がボルスタ上の所定位置まで移動され位置決めが終了すると、金型をボルスタに固定するために、ダイリフタの転動体は浮上位置から下降し、金型はボルスタにTボルトで固定される。

この種商品が市場に出回り始めた当初は、特にボルスタにダイリフタ加工用のU溝(角溝)を加工して、この溝に挿入して使用するタイプのダイリフタが主流であったが、昭和五三年ころから、ボルスタにもともと穿たれているTボルト挿入用の溝をそのままダイリフタの挿入溝としても活用する、T溝挿入タイプのダイリフタが製造販売されるようになった。

2  ダイリフタ商品の取引の実情

証拠(甲二六ないし四九、八一、八二、乙一五ないし二二、四三、五〇ないし六六、七〇(いずれも枝番を含む)、証人武田、被告代表者本人、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実を認めることができる。

ダイリフタの需要者は、プレス機械を使用するプレス加工業者若しくは右業者からの注文に基づきダイリフタを取り付けたプレス機械を製造する製造業者であり、その取引ルートもダイリフタメーカーから直販される場合もあれば、機械工具販売店を通して販売される場合もある。

需要者は、ダイリフタ商品の購入に当たっては、製品の負荷能力、駆動機構、転動体の形状、寸法、U溝挿入タイプかT溝挿入タイプか、T溝挿入タイプである場合は、自分が使用しているプレス機械に設けられているT溝の形状や寸法に合うか否かなどの各部の詳細な仕様やその加工精度などの機能に重大な関心を有し、専らその点を選択基準として商品を購買する。

ダイリフタメーカーは、顧客の商品選択基準が右のような点にあることを踏まえ、メーカー名を明示したカタログに、自社のダイリフタ製品の各部の仕様や寸法、機能などを詳しく記載し、業界で配布している。通常、一つの業者が多種類のダイリフタを製造販売しているので、右記載も、商品の型式ごとに区分してするのが通例となっている。例えば雑誌に広告を出稿する際にも、資料請求先を明示するなどして、顧客がカタログを入手して自社製品の仕様や機能などを検討しやすいように便宜が図られている。

ダイリフタが単なる消耗品ではなく、価格も通常五万円を超え、一〇万円以上になることも珍しくない商品であることから、顧客は、カタログを入手して直ちに購入を決断するのではなく、各社のカタログを見比べ、各商品の仕様、機能、価格などを逐一比較検討し、慎重に購入商品を決し、最終的に型式により商品を特定し注文する。

三  原告商品の販売実績

証拠(甲六〇ないし七九、八一、八二、証人武田、弁論の全趣旨)によれば、原告商品の販売実績は、昭和五六年一一月から平成四年九月三〇日までの間に合計五二六六基、七億五四一五万九八〇〇円相当であり、一年に約六九〇〇万円の売上げであって、この数字はダイリフタ市場(年間の総売上げは約一〇億円。被告代表者本人)の約六・九パーセントの市場占有率に相当する。原告は、商品表示性の有無を判断するに当たって考慮すべき市場占有率は、駆動力にエアーを使用するダイリフタの市場、転動体にボールを使用するダイリフタの市場によるべきであり、これらの市場での原告商品の占有率は一〇〇パーセントとなっていると主張するが、本件で問題となるのが商品の形態でみって機能ではない以上、そのように細分化して考えるべき根拠はない。

四  原告商品の宣伝態様

原告商品の広告のうち甲第三号証ないし第一四号証(枝番を含む。ただし、甲第六号証の22、24、25、甲第七号証の4、6、9、14、17、甲第八号証の2、4、6、7、16、19、甲第九号証の4、7、10、15、19、甲第一〇号証の4、7、10、19、甲第一一号証の4、7、8、11、13、15、18、21、甲第一二号証の5、9、13、17、20、24、甲第一三号証の3、5、8、14、15、19、甲第一四号証の4、5、8、12、16、19は、原告商品そのものに関する広告ではない)は、日刊工業新聞に掲載された広告であるが、原告商品のうちAFU-500T(AFU-500TNのキャプションが記載されている写真も、AFU-500Tの写真である)を正面斜め上方から撮影した写真と、右商品をプレス機械に取り付けた状態を側面斜め上方から撮影した写真を掲載するのみであり、新聞の一面の縦三分の一、横四分の一程度の小さなスペースに掲載されているため、原告主張の形態上の特徴も十分には識別できない。その宣伝文言も、右商品がエアーを駆動力としていること、ダイリフタの負荷能力、金型を三六〇度方向に動かせること、プレス機械のT溝に挿入できることなどの機能面に主眼をおいている。

甲第二六号証ないし第三七号証(枝番を含む)は、いずれも雑誌「プレス技術」誌上に掲載された広告である。そこでは、AFU-500T及びAFU-500TNを正面斜め上方から撮影した写真(甲第二六号証ないし第三六号証の8(枝番を含む)がAFU-500T、甲第三六号証の9ないし第三七号証(枝番を含む)がAFU-500TN)と、右商品をプレス機械に取り付けた状態を側面斜め上方から撮影した写真が掲載されているのみである。雑誌の一頁を使っているため日刊工業新聞掲載の広告写真よりはAFU-500T及びAFU-500TNの形態がよく理解できるが、それでも全体形状までは理解できない。特に、甲第三六、第三七号証(枝番を含む)では、AFU-500T及びAFU-500TNを正面斜め上方から撮影した写真が小さくなり、その代わり正確とはいえない原告商品(どの型番に該当するかも不明)のイラストが掲載されている。宣伝文言も、右商品がエアー浮上式であること、一本で五〇〇kgの金型を支える負荷能力を有すること、金型を三六〇度方向にスムーズに移動、調節できること、プレス機械等のボルスターなどのT溝に挿入して使用できることなどの商品の機能面の宣伝を主眼としている。

甲第三八号証ないし第四九号証(枝番を含む)は、雑誌「機械設計」誌上に掲載された広告である。そこでも、AFU-500T及びAFU-500TNを正面斜め上方から撮影した写真(甲第三八号証ないし第四八号証の4(枝番を含む)がAFU-500T、甲第四八号証の5ないし第四九号証(枝番を含む)がAFU-500TN)と、右商品をプレス機械に取り付けた状態を側面斜め上方から撮影した写真が掲載されているのみである。雑誌の一頁を使っているため日刊工業新聞に掲載した広告よりはAFU-500T及びAFU-500TNの形態がよく理解できるが、それでも全体形状までは理解できない。特に、甲第四二号証の2ないし第四九号証の2(枝番を含む)では、AFU-500T及びAFU-500TNの正面斜め上からの写真が小さくなり、その代わり正確とはいえない原告商品(どの型番に該当するかも不明)のイラストが掲載されている。宣伝文言も、商品の機能面の宣伝を主眼としたものである。

甲第五〇号証ないし第五九号証は、原告商品を取り扱う商社が配布しているカタログである。そこでは、AFU-400TNあるいはAFU-500TNを斜め右上方から撮影した写真を掲載し、商品の概要、仕様、性能、使用方法の説明がされているだけである。中には原告商品の図面を掲載している広告もあるが(注)、これらの図面も製品仕様を詳しく説明する補助手段として掲載されているだけである。例えば、甲第五〇号証の下降時を示す側面図では、その高さをHと表示し、同じ頁のT溝に挿入するタイプのダイリフタの一覧表の「H」の欄で型式ごとに高さを示している。

(注) 甲第五〇号証は側面図(浮上時と下降時の両方)及び正面図、甲第五二号証は側面図(浮上時と下降時の両方)、正面図及び平面図、甲第五五号証は側面図(浮上時と下降時の両方)及び正面図、甲第五六号証は側面図(浮上時と下降時の両方)、正面図(浮上時と下降時の両方)及び平面図、甲第五七号証は側面図(浮上時と下降時の両方と、T溝における取付状態を示すもの)、正面図及び平面図。

五  まとめ

二1で認定したところによれば、原告が原告商品の形態的特徴であると主張するもののうち、全体形状が長尺状であること、上部に横一列に定間隔で転動体を配置していること、使用時に転動体が上昇ないし浮上することは、ダイリフタという製品がその製品の性質上当然に具備する形態であり、現に、証拠(乙九ないし乙一三(枝番を含む))によれば、相生精機(株)、(有)コスモテック、エスアールエンジニアリング(株)、(株)アサヒエンタープライズ、(株)小林搬送機器の製造販売するダイリフタが右のような形態を具備していることが認められる。また、幅の広い長尺状の基台の上に、同基台より幅の狭い長尺状の受台を設けている点と本体の側面形状がほぼ逆T字状である点とは、不可分一体の関係にあるものである。そして、このような逆T字状の形態が、(株)中村プレス工業所の出願に孫る「プレス金型移動用具」の公開実用新案公報(出願公開・昭和五四年四月一三日)及び栗田光郎出願に係る「プレス機用ダイリフタユニット」の公開実用新案公報(出願公開・昭和五三年一〇月七日)にもみられるように(乙六、六九)、T溝挿入型のダイリフタにおいて、T溝全体を有効に活用しようとすれば、採用する技術的必然性の高い形態の一つであることは容易に認められるところである。右の各点をもって、原告商品の特徴的な形態とすることはできない。

転動体としてボールが使用されている点についてみるに、証拠(証人武田、原告代表者本人)によれば、ダイリフタで転動体にボールを使用した製品として製品化されたものは、原告商品が初めてであると認められる半面、前記(株)中村プレス工業所の出願に係る公開実用新案公報及び栗田光郎出願に係る公開実用新案公報には、転動体にボールを使用したダイリフタが図示されていることが認められる。特に前者の図面は、原告が原告商品の形態的特徴として主張するところをほとんど具備しているものと認められるのである(乙六、六九)。そうすると、転動体にボールを使用することは搬送方向を三六〇度方向にする光めに、採用することのよくある形態の一つにすぎないものと認められ、転動体としてボールが使用されている点に原告商品の形態上の特徴があるとはいえない。従来転動体としてボールを使用したダイリフタを販売していたのが原告のみであったことを斟酌するにしても、そのことだけをもって、右形態的特徴が商品表示性を具備したものということはできない。

翻ってみるに、二2及び四のとおり、ダイリフタは、プレス加工業者やプレス機械製造業者などの専門業者が、その仕様や機能に着目して購買する商品であり、注文に際しても、各メーカーが独自に定める型式によって製品を特定して取引されるものなので、需要者が商品の仕様や機能を離れて、単に商品の形態自体に着目して購買することはほとんど考えられず、石川誠の当審証言もこの点を裏付けている。前記のとおり、原告を含む各メーカーにおいても、商品の形態によって需要者の購買意欲を刺激したり、商品の形態自体をセールスポイントとして商品の宣伝をするのではなく、カタログなどにより商品の仕様や機能を詳しく表示して販売しており、三で認定したとおり、原告商品の市場占有率も必ずしも高いものとはいえないのである。

以上の認定事実を総合すれば、原告主張の原告商品の形態の特徴が商品表示性を具備したとは到底認められない。

原告は、原告商品がその形態や意匠をセールスポイントとするものではないとしても、原告商品の販売が増大するにつれ、当初商品の機能や価格などを重視して購入を決定していた顧客も、細長い金属台が二段重ねとなっでおり、その上に銀色のボールが横一列に多数設置されており、そのボールが少し顔をのぞかせ、側面の形状が逆T字状の商品は、あらゆる方向に搬送物を移動させるための商品であり、特定の会社により製造販売されているとの認識を有するに至る旨主張し、また、原告が日刊工業新聞に掲載した広告の写真と宣伝文言を併せ読めば、原告主張の原告製品の形態的特徴が十分視覚的に訴えると主張するが、前記判示に照らし、右主張は採用することができない。

原告商品の形態の商品周知性を検討するに際しては個々の要素に分断しないで全体としてみなければならないとする原告の当審主張、並びに、商品表示性の有無を当審の証拠調べの結果を斟酌してみても、右認定は動かない。

第五  結論

よって、原告商品の原告主張の形態の特徴が商品表示性を具備したものと認めることはできないから、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。請求棄却の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 竹原俊一 裁判官 塩月秀平)

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